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Vol.224 現場からの医療改革推進協議会第十五回シンポジウム 抄録から(15)

医療ガバナンス学会 (2020年11月2日 06:00)


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2020年11月2日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

現場からの医療改革推進協議会第十五回シンポジウム

11月8日(日)

【Session 15】コロナ9  経済をまわす 16:00~17:15

●感染症における新宿モデル
手塚マキ

新型コロナウイルス感染症は土地に根付くものではない。人に根付くのであるから、人と人との感染を防ぐ意識を持つことが大切だ。
感染拡大に伴う緊急事態宣言が解除された後、多くのホストクラブは営業を再開した。再開して間もなく、あるホストクラブでクラスターが発生した。2020年6月1日に新宿区長の吉住健一氏から、「恐らくホストである可能性が高い感染者が多いのだが、ホストとは名乗らず実態を把握することができない。歌舞伎町の実際の状況について教えてもらいたい」との要請を受けた。吉住区長の「犯人探しをしたいのではない。二次感染を防ぎたい。新宿区民の健康を守りたい」という話を受け、私は「感染拡大を防ぎ、風評被害を失くす」という利害は一致していると考えた。
しかし、歌舞伎町の多くの事業者たちは行政への不信感が強く、「藪蛇になるようなことはしたくない」という反応を示した。事業者の協力を得るには、区長から事業者へ行政の仕組みを丁寧に説明する必要があると感じ、まずはその機会を設けた。そこで国、都、区の違いや警察と行政の関係、その上で新宿区役所の方針を説明してもらうことができた。2回の会合を経て、区と事業者がお互いに意義を実感し、その後勉強会として10回以上、区長と沢山の事業者が直接話し合う場を設けた。
「営業を続けながら如何に具体的な感染予防対策が出来るのか?」専門家を交えて話し合う中で、感染者が出た場合の対処として濃厚接触者の集団検査を行うことになった。それが発展し、ホストクラブだけでない他の事業者達を巻き込んだ新型コロナ対策連絡会が立ち上がった。
「夜の街」という言葉が専門家や行政から発せられたとき、それが事実であったからこそ、連日メディアが報じ、彼らを排除しなければならないという社会的感情を後押しした。そのさなかで区は事業者と丁寧に対話し、事業者の理解を得て対策を進める立場をとった。こうして感染症に官民一体で取り組む新宿モデルの構築に至った。
●コロナ禍に伴う予防医療業界の影響とそのIT活用
西野恒五郎

緊急事態宣言に伴う医療施設の健診受け入れの停止や、地方自治体の集団検診の実施中止など、新型コロナウィルスは日本全国の医療施設と地方自治体が実施する人間ドックや各種がん検診にも大きな影響を与えました。現在でも三密回避を目的とした受け入れ人数縮小は継続しており、秋以降にかけては実施時期が集中することに伴う健診難民増加が見込まれています。
当社は全国1,200以上の医療施設と100弱の地方自治体に対してITソリューションを提供している会社です。緊急事態宣言の最中、様々な医療施設の先生方とお話をさせていただき、コロナ禍においても予防医療の大切さが損なわれるものではないことを教えていただきました。
それを受けて当社では緊急事態宣言解除後、運営する人間ドック予約サイト上で『コロナに負けない健康応援キャンペーン』を病予測、数十年単位の未病データを活用した新薬創出、他業界のビックデータと連携することによる更なる健康増進への活用等。当社はITソリューションの開発とその普及促進を通じて、医療施設の先生方と共に健康寿命の延伸に挑戦し、一人一人が健康で幸せに過ごせる時間の創造を目指しています。
●「感染防御」と「経済」の両立は可能か ~Covid19における二項対立問題を解く
佐藤慎一

新型コロナウィルスが世界中で猛威を振っている。今日現在、程度の差はあれ、日本も状況は同じである。第一波では、感染拡大を食い止めようと、政府は「緊急事態宣言」を発出、国民に「新しい生活様式」という名の「行動自粛」を強く求め、併せて思い切った経済支援策も講じた。その効果もあり感染拡大はかろうじて抑え込めたが、その代償は大きかった。経済活動に「行動自粛」という「麻酔」をかけたからである。「見えざるウィルス」を抑えるために「見えざる手」を封じるとは何とも皮肉な話だが、当然、経済社会は機能不全を起こし、その後遺症は深刻である。その後も感染が再拡大する中、「行動自粛」の呼びかけが続 く。「麻酔」は閾値を超えると蘇生が難しくなる。「行動自粛」が求め続けられる限り、経済を正常化させることは難しい。果たして「感染防御」と「経済」は両立できるのか。二兎を追えるのか。まさに二項対立的な難問である。だからこそ英知を尽くした「アウフヘーベン」が不可欠である。この難題を解くためのヒントは、次の5つのキーワードにある。
第一は、「安心」である。人は、目に見えない未知のものに恐怖を抱く。不確実だからである。しかも多くの無症候キャリアがいつの間にか市中感染を広げていく。これが更なる恐怖をもたらす。どうすれば「安心」を取り戻せるのか。個々人の感染の有無のみならず市中感染状況の全貌がわかれば、不確実性が取り除かれる。
第二は、「人間らしい普通の日常」である。有効な感染症対策として、「新しい日常」が提唱されているが、これは本質的に「人間性」に背馳しうる。緊急対応としてはやむを得ないが、これに長く拠りかかることには無理がある。経済社会が「壊死」の道を辿りかねない。国民が求めているのは、ごく平凡な「人間らしい普通の日常」である。
第三は、「持続可能性」である。このウィルスは社会的弱者を厳しい状況に追い込み、淘汰し、社会的分断(格差と貧困)を広げる。大胆な金融財政政策により経済社会を下支えする必要があるが、「新しい日常」が慫慂され続ける限り、それにも自ずと限界がある。戦略的視点を欠いたまま、徒に「ストップ・アンド・ゴー」的対応が繰り返されれば、経済・社会・財政の持続可能性が一気に損なわれ、不安定化する恐れがある。
第四は、「いかなるウィルスとも共生できる経済社会システム」である。「新しい日常」に慣れるということではない。いかなるウィルスに対しても持続可能で、かつ社会的分断を招かない強靭なレジリエンスを持つ社会経済システムへの構造転換を構想し、これを将来の方向性として共有する必要がある。
第五は、「国に対する信頼」である。今回のコロナ危機は、戦後最大の「共同の困難」(シュンペーター)であり、国の統治能力そのものが問われている。国に対する信頼なくして、いかなる政策も成功しない。現状、果たしてやいかに。神風は吹かない。
以上を手掛かりに、「感染防御」と「経済」を両立させるための処方箋を模索する。
●失敗もサイエンスもない日本、失敗とサイエンスに学ぶ英国
渋谷健司

緊急事態解除後に感染が振り返すことは予想されたことだが、それを早期に抑え込めず、世界に先駆けて第二波に入ってしまった日本のコロナ対策。政府の感染予防策は、3密回避や新たな日常など、相変わらずの国民へのお願いに終始している。壊滅的な影響を受けている観光業を支援し経済を回そうとするGoToトラベルは迷走を続け、イベントの解禁にも赤信号が点灯している。これはひとえに、有効な感染コントロールができていないからだ。
感染のリスクがあれば、国民は安心して旅行をしたり、経済活動を行うことはできない。もちろん、経済を回すためにも、緊急事態宣言時のような外出自粛や休業要請は避けたいという政府の考えは理解できる。
今の経済状況が続けば多くの事業者で倒産が続出するため、もう自粛は勘弁してほしいという国民の声ももっともだ。また、「第一波の対応に日本は成功した、今回も大丈夫じゃないか」という楽観的考えも一部にはあるだろう。しかし、新型コロナはそうした考え方を嘲笑うかのように、感染を続けている。
自粛を回避し経済を回さなければいけない状況で、前回成功したと言われているクラスター対策(検査を主な症状のある症例に限定)に基づく「日本モデル」のみでは、この感染症を抑えることは極めて難しい。
本講演では第一波の対応に失敗したものの、ロックダウン解除から再燃を抑え込みながら、世界的第二波を乗り越え経済を回そうとしている英国の戦略を参考に、日本の今後の対応を論じる。

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