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Vol.22009 コロナ感染症検査体制にみるムラ社会の論理とその破綻

医療ガバナンス学会 (2022年1月17日 06:00)


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東京理科大学基礎工学部名誉教授
山登一郎

2022年1月17日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

上先生の新年のメルマガVol.22001で、厚労省医系技官をはじめとしたコロナ対策における感染症ムラ社会の非科学性を批判していた。

私は、これまで本メルマガで、検査体制の不合理・非科学性を指摘してきた。直近のVol.222で日本の感染者数激減理由を論じ、原因を市中無症状者無視の検査体制に帰した。またVol.22003で本年年初の急拡大理由も同根であろうと推測した。民間自費検査や無症状者対象無料PCR検査などの民間検査結果を収集公開しないのだ。

これら検査体制の制度設計は確実に厚労省に由来する。どうして彼らは行政・保険適用検査結果だけを公表新規感染者数統計に採用するのだろうか。
それは、感染者数情報を一手に牛耳り、他の組織からの干渉を排するためではないかと憶測した。何故なら、発熱など有症者対象の保健所主導行政検査と医師主導保険適用検査の情報だけを採用し、民間の検査で陽性判定を受けたものは保健所経由で行政検査を再受診して陽性確定され、入院なり療養施設に収容されるという制度にしていることから推測した。民間の検査結果を、彼らは決して直接には採用しないのだ。
これで厚労省直轄の組織だけが感染症情報を把握できることになる。それがどれほどの被害を国民にもたらすことになったのか、を思うととても残念に思う。いままた年初の日本で急拡大がみられ、そのため日本の各所で「マン延防止等重点措置」などの議論が噴出し始めた。医療崩壊や行動・経済活動制限が始まってしまうのかと心配させる局面だ。

専門家はこの年初の感染急拡大を、ワクチン効果減少、帰省などの人流増加、オミクロン株出現のせいと論じる。それで日に2倍や3倍の感染者数増になったとする。
そんなバカなことがあるだろうか。ワクチン効果がこのホンの一週間程度で急減するものだろうか。年末年初には人流が増加したが、その前に比べてそんなに急増したのだろうか。そしてワクチン接種のおかげでデルタ株への感染も随分抑えられていた。ブレークスルー感染するのはオミクロン株であろう。しかし日本での感染発覚からまだ時間がそれほどではなく、国中に感染源が拡散するのはさらに時間がかかる。その意味で今はデルタ株の再拡大が主なのではなかろうか。またオミクロン株が主になっていくとしても、いきなり急拡大を示すことはありえないはずだ。
つまり、実は彼らも報道も、行政・保険適用検査陽性者数だけが全感染者数を表すとの建前で、その増減についての説明のために仕方なく無理矢理の理屈をつけているように映る。
このことは、Vol.167でも論じた。感染者のうち無症状者割合を3割と考え、有症者中心の行政・保険適用検査陽性者とその周囲の濃厚接触者検査による残り約3割の無症状者特定で、全感染者を日々の公表新規感染者数として把握していると説明する。
決して市中無症状者の滞留を認めないように見受けられる。そして民間自費検査を非感染者の検査と位置づけ、陽性者は検出されないものと考えているように見受けられる。本当は、市中無症状感染者として、ワクチン以前は公表新規感染者数の50-100倍、以後は1000倍程度滞留しているはずなのに。その情報を収集も公開もしないのが日本の感染症対策なのだ。

諸外国では、Vol.181やVol.22003でも挙げたように、すべての検査情報をオープンにしている。
例えばフランス25日10万人感染者、検査数155万、陽性率6.5%、29日には20万人突破。アメリカも100万人感染者と騒ぐ。“誰でもどこでも”検査を行い、市中無症状者も含めた陽性者数情報を収集公開している。だから国民は、例えばフランスの25日全土では人口6千万の6.5%、400万人感染者がいると推定できる。各自その状況の中でどう行動するか、自主判断できるのだ。それが“自由”を第一義とする民主主義であろう。
またシミュレーション予測も行われるが、この市中感染者数が本来の感染可能状態の人数として用いるべき値だと思う。

さて年末年始の日本で実は何が起こっていたのだろうか。Vol.22003で予測したように、当然日本でも公表新規感染者数以外にも市中無症状者は多数滞留しているだろう。そのことを認めれば、以下のように容易に年初の感染拡大理由を説明できる。
先月26日からついに市中無症状者対象無料PCR検査がスタートした。年末の帰省目的でもきっと大勢の人が市中無料検査を受け、そのうちの無症状感染者が陽性判定されているだろう。彼らは年末年始の保健所休みで自宅待機、市中にも感染拡大させ、または帰省して地方に感染拡大させ、年始保健所再開時に彼ら感染陽性判定者が大挙行政検査を再受診して感染特定され、公表新規感染者数に算入される。それが見かけ上年始の急拡大に至ったと考えられる。つまり年末前には市中無症状感染者を野放しにしていたのに、26日から急に市中無料検査をスタートさせて市中感染者を積極的にあぶり出し始めたのだから、当然以前に比べて見かけ上急増するように見えるはずだろう。前回の第三波の由来もそのように推測した。
しかし専門家も報道もそうした可能性を一顧だにしない。何故なら彼らは市中無症状感染者の存在を認めないのだから。しかしこれが一番妥当な解釈だと思う。
そして市中で行われた検査数もそこでの陽性者数や陽性率の情報も全く収集公開しない。市中民間自費なり無料検査陽性者には行政検査を再受診させるという複雑でややこしい検査制度にしてしまっており、結局民間検査情報を無視・隠蔽できることになってしまっているようだ。もちろんこの制度においては、行政・保険適用検査でその日々の感染陽性者数は網羅できていることにはなっている。しかし、そのうちの市中無症状感染者数が分からず、その比率や陽性率などの市中感染状況情報が全く入手できないことになってしまっている。

日本では、公表新規感染者数情報しか公開されていない。専門家も報道も、その情報が全感染者数を与えると信じており、結局まるで市中無症状感染者はいないものと見なしているように思える。でもそんな間抜けなことがあるのだろうか。
上に指摘したように、年初急拡大のちぐはぐな説明をしていて、本人たちは疑わないのだろうか。昨年もそうだった。諸外国の情報に接し、報道でもレポートして検査数や陽性率をその通りに報じていても、何とも思わないのだろうか、どうして日本との違いに気づかないのだろうか。厚労省が定めた検査制度が無謬のものだと信じているのだろうか。彼らの思考回路がとても不思議で理解できず、思考停止に陥っているとしか思えない。
もちろん市中無症状感染者がいなくて公表新規感染者数だけが全新規感染者の場合には、これまでの情報と解析が妥当だと思う。でもワクチン接種で無症状・軽症者が多くなると聞く。それでも市中無症状感染者が滞留していないとしていいのだろうか。もしここでの提案が妥当なら、公表新規感染者数上の現感染拡大局面が、滞留市中無症状感染者の洗い出しに由来するものなのか、市中でのネットの感染拡大に由来するものなのか判断するためには、市中無料検査の検査数や感染率など市中感染状況情報が必須のはずだ。今のような公表新規感染者数情報だけでは、感染状況を見誤って間違った感染対策を立ててしまうことになる。これまでこの同じ過ちをずっとしてきてしまったのではないかと告発したい。
おまけにシミュレーションも、日本では市中感染者数を推測できないため、やろうにもできないと思われるのに、むりやり公表新規感染者数を代用しているように思う。Vol.202で論じた。だから当然その予測もデタラメなものにならざるを得ない。

昨年年初来ずっとこの民間自費検査なり大規模モニタリング検査情報の収集公開を訴えているが、未だに無視されたままだ。そして専門家たちは、市中無症状感染者の滞留を無視する形の信じられない理屈の原因を挙げて、前回や今回の急拡大を説明している。これでは、専門家も報道もおまけにシミュレーション研究者も、国民皆から信用を無くし、その結果、どんなコロナ感染症対策を提案してももはや耳を貸して貰えない状況になると心配する。
その根本原因を感染症ムラの論理によると推察し、ここで明示的に批判しておく。感染症対応の縄張り維持の一環として、検査情報の占有を目指し、ここで取りあげたように民間検査活動を無視するようないびつな検査制度設計を提案したのだと疑う。御用報道、御用学者やその周りの人々も含めて、その検査制度の妥当性を強弁しているように見える。しかし、諸外国の例やその強弁の非科学性・非合理性を感じ取るにつれ、かつこれまでの不適切なコロナ対策の数々に接して、国民はもはや呆れはて、論理も破綻しているとみているのではなかろうか。まるであのモリカケ問題での首相の強弁の如くに受け取られてしまっていると批判・告発しておく。

Vol.22003の最後に書いた節を再度掲載して注意喚起しておく。
政府自治体専門家諸氏には、良心に従い、頭を働かせて、科学的合理的な感染症対策に取り組んで頂きたいとお願いする。未だに感染状況の情報無視では、太平洋戦争時の大本営・参謀本部と同じになってしまうだろう。国民に「よらしむべし、知らしむべからず」の情報隠蔽は、どうぞもう止しにして欲しい。欧米と同じ形をまねしても、その本質を理解しないでは、意味のある結果を得ることは不可能なのだから。

“誰でもどこでも”検査拡充が始まった。あとやるべきは、まず縄張り意識を払拭、官民協力して、両者合わせた全検査の詳細な情報の収集と公開だ。情報を国民と共有することで、日本では自主的に積極的な検査受診と自粛的行動を採り、感染縮小に協力してくれると信じる。すると「マン延防止等重点措置」も医療崩壊も無用になり、経済活動も普段通りに営むことができると期待する。
そして感染者に対する対応として、ずっと言われているマスの療養施設準備も是非速やかに実施して欲しい。
Vol.167 http://medg.jp/mt/?p=10483
Vol.181 http://medg.jp/mt/?p=10524
Vol.222 http://medg.jp/mt/?p=10645
Vol.22001 http://medg.jp/mt/?p=10697
Vol.22003 http://medg.jp/mt/?p=10712

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