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Vol.22003 折角市中無症状者無料PCR検査をスタートさせたのに、未だにその情報収集も公開も念頭にない日本のコロナ対策の罪深さ

医療ガバナンス学会 (2022年1月6日 06:00)


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東京理科大学基礎工学部名誉教授
山登一郎

2022年1月6日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

オミクロン株の市中感染が確認され、やっと首相が“誰でもいつでも”の市中無症状者対象無料PCR検査体制を実際にスタートさせた。大阪、京都、沖縄、12月26日からだ。欧米の検査体制に近づいたと喜んだ。ところが5日後の30日でも、その検査件数も陽性者数なり陽性率もどこにも報告されない。形だけまねして、内実は空っぽということだ。

何故そうした情報が重要なのか。本メルマガでずっと訴えてきたことだが、その情報から市中の感染状況が把握できるからだ。日本の国民性とマスク着用などの生活習慣からは、そうした感染状況情報を共有するだけで、国民は自主的に自粛的行動を採り、感染拡大防止に貢献すると信じている。

では、どんな感染状況の情報が得られるのか、人口6千万人のフランスを例にとり説明する。25日感染者10万人突破と報道された。町中のPCR検査所での検査待ち行列をテレビで報道していた。主に無症状者が特定される。その検査件数は155万件。だから陽性率6.5%。この陽性率から、フランス全土の感染者数は400万人と推定できる。
日々のデータから、倍加時間3日程度も算出できる。倍加時間については本メルマガVol.69と70を参照。するとフランスでは、検査&隔離の戦略だけでは検査が追いつかないため感染縮小が覚束なく、ワクチン三回目早期接種戦略に頼らざるを得ないことが判断できる。
また感染者数シミュレーションも市中の感染可能状態の人数400万を用いて行うべきであり、検査&隔離される10万人は、400万に比べて無視できるとしても、本来は治癒に分類されて除外されるべき数に当たる(本メルマガVol.202)。

さらにイギリスのデータでは、オミクロン株感染者の入院率は0.6%程度に低いとのこと。この入院率は無症状も含めた全感染者のうちで入院する割合であり、有症者に当たると考えられる。入院が必要な有症者の100%を入院させるということが前提になっている。無症状者はマスの療養施設なり自宅療養で隔離されており、入院の対象とは見なされない。
ちなみに日本の入院率は異なる解釈だ(メルマガVol.181)。未だに感染症法2類相当に拘り、無症状者も含め全感染者を入院させることにしている。だから全感染者入院100%達成を目指し、40%を下まわるような状況は医療逼迫とされている。そのため、無症状でも病床を占有することになってしまい、病床補助金詐欺が公然と罷り通っていた。おまけに、すぐにベッド不足になって有症者をも自宅療養させることになり、挙げ句の果てに救急搬送が間に合わずに死亡させてしまうなどの事件が発生してしまった。単にマスの療養施設を準備すればいいだけの話なのに。やっと29日、オミクロン株濃厚接触者全員入院措置を停止し、無症状者は自宅なり療養施設での隔離方針に切り替えたようだ。でも入院率の計算は、以前のままなのかもしれない。

さて日本での感染状況はどうなのか。未だに有症者中心を対象にした行政・保険適用検査の情報しか報告されない。昨年(2020年)12月、民間の市中無症状者対象PCR検査センターが普及しはじめ、そのせいであの年末年始の第三波急拡大が見られたと推測した。つまり、帰省に備えて多くの人々が民間自費PCR検査を受診、そのうちの無症状感染者がたまたま陽性特定され、その彼らが年始の保健所再開時に一挙に行政検査再受診したために、見かけ上急に感染者が増加したように見えたと考えた。そのことを1月に分科会メンバーや政府自治体報道など各所に訴えたが無視された。4月から医療ガバナンス学会本メルマガに投稿掲載させて頂いた。そこではずっと大規模モニタリング検査実施なりこの民間自費検査の検査数や陽性率の情報を収集公開するように訴えたが、政府自治体専門家報道すべて取りあげてくれなかった。
今回やっと首相の“誰でもいつでも”無料PCR検査体制実施スタートで、その情報が入手できると期待したのだが、5日経ってもどこにも発表されない。結局日本では、市中にどの程度の感染者がいるのか(メルマガVol.102)、無症状者と有症患者の割合はどうか、などの情報が得られないのだ。上記フランスの例と比較すれば、検査を同じような形でやっても、内実は空虚、得られる情報が皆無なのがお分かり頂けると思う。これで「コロナ感染症の<感染状況を注視>して、先手先手で対策をうつ」なんてことがどうしてできるのだろうか。まず大本の感染状況を把握しようとしないのだから、何を<注視>するのやら。そして状況情報を取得せずに、どうやって科学的合理的な対策や戦略を考えることができるというのだろうか。

これまでのデータで日本の感染状況を推測しておく。公表新規感染者数の1000倍はいるはずだ(メルマガVol.222 )。ワクチンと国民性と生活習慣から、第五波も急減した(メルマガVol.222)。人流が増加しても、気をつけて生活しているおかげで、公表新規感染者数も都で2-30人の低い定常状態だった。市中にはその1000倍の3万人の感染者がいると見積もると、都の市中感染率は人口14百万人の0.2%程度と推定できる。民間自費検査なり今回の市中無症状者対象無料PCR検査の検査情報を収集すれば、フランス同様すぐに陽性率が算出でき、それがそのままこの市中感染率(0.2%?)の確度の高い推定値を与えてくれるのに、これまでも今回もそのような情報を得ようとせず、市中感染率を推定しようともしないのだ。不思議な思考回路だとつくづく悲しくなる。これでどうやってどんな感染対策を行おうというのだろうか。
今回もまた帰省などの人流増加、かつワクチン接種後の時間経過と“誰でもいつでも”無料PCR検査開始のおかげで、前回同様年末年始に急拡大するように見えると予想する。(専門家が報道で人流増加とワクチン接種効果の減少を理由に拡大を予想するが、彼には市中無症状者の滞留とその無料PCR検査によるあぶり出しということが未だに理解できないらしい。)
ちなみに29日、都では76人の公表新規感染者数、前週から36人増とのこと。そこから逆に市中無症状無料PCR検査数を推定できるだろう。公表新規感染者数30人の1000倍、約3万人の市中無症状感染者がいると推定すると、感染率は0.2%と見積もれる。すると2万件の検査で40人程度の無症状陽性者が特定されることになる。その数字が丁度前週からの増加分36人という数にうまく符合する。だから多分現在都では2万件の無料PCR検査が行われたと推定できる。もちろんその検査数では不十分で、多いほどよく、100万件検査できれば2000人の陽性者特定・隔離が可能になる。早くこの検査数と陽性者数なり陽性率の情報を収集公開して欲しいものだ。
フランスでは、前述のように、155万件の検査で10万人の陽性者を特定していた。日本の感染率はフランスの一ケタ分も低いと推定される。マスク着用などの生活習慣を維持する感染抑制的国民性だとつくづく感心する。
つまり、これまで訴えていたような民間自費検査や今回の無症状者対象無料PCR検査情報を収集公開し、かつここでの論理を分かりやすく説明することで、日本では国民に注意喚起を促し、自粛的行動をとって感染拡大防止に協力してくれると期待できる(メルマガVol.121)。するとまず感染拡大の倍加時間を3日などではなく、10日程度に延ばすことができ、おかげで検査&マスの療養施設での隔離を促せば、感染状況をコントロールできると期待できる。

この情報収集・公開のメリットは多大だ。上述したように、まず国民全員が感染状況を把握でき、そのおかげでそれぞれ自分の意思で判断・行動し、その総合結果として感染をコントロールできる。すると報道などでも必死に訴えている三回目ワクチン接種も急がなくてもいいのかもしれない。むしろ、日本のようにその国民性で感染を抑制できるなら、国際的にも非接種者が多い国々にワクチンを先に融通するくらいの余裕・貢献が可能なのだと思う。国民に説明すれば、納得して進んでワクチン接種を待ってくれると期待する。こうした政策が科学的合理的な感染対策というものではないのだろうか。
また日本でやっと本来の意味のあるシミュレーションができる。これまでは、あのフランスの例における市中感染者400万人に当たる数ではなく、隔離される10万人に相当する行政・保険適用検査陽性の公表新規感染者数を用いてシミュレーションをしていたのだろう(メルマガVol.192)。大学教授も含め、日本の研究者の無知・間抜けさ加減が情けなく、同じ生命科学研究者の仲間としてとても恥ずかしく視聴していた。少なくともまともで意味のあるシミュレーションを報告して欲しいと期待する(メルマガVol.202)。

今回のオミクロン株出現で、またまたデルタ株の時同様、その変異株の高感染率のせいで第六波の感染拡大が危惧されるという説明を政府自治体専門家報道は好むようだ。でもそれは自分たちの無能を棚に上げて変異株のせいに負わせているだけで、責任転嫁と映る。デルタ株でもオミクロン株でも、日本では正確詳細な市中感染状況を情報収集公開して、それを国民と共有することで、国民は感染抑制に協力してくれること間違いないと信じている。その基礎となる情報を、自分たちの間抜けさのせいで収集公開しないのが最大の問題なのだと糾弾したい。

政府自治体専門家諸氏には、良心に従い、頭を働かせて、科学的合理的な感染症対策に取り組んで頂きたいとお願いする。未だに感染状況の情報無視では、太平洋戦争時の大本営
・参謀本部と同じになってしまうだろう。国民に「よらしむべし、知らしむべからず」の情報隠蔽は、どうぞもう止しにして欲しい。欧米と同じ形をまねしても、その本質を理解しないでは、意味のある結果を得ることは不可能なのだから。
Vol.069  http://medg.jp/mt/?p=10224
Vol.070  http://medg.jp/mt/?p=10226
Vol.102  http://medg.jp/mt/?p=10313
Vol.121  http://medg.jp/mt/?p=10357
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