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Vol.25206 神奈川県立病院における医療事故調査制度の理解度について~再び発生した医療事故への対応を考察する

医療ガバナンス学会 (2025年10月29日 08:00)


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神奈川県議会議員
小川久仁子

2025年10月29日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

地方独立行政法人神奈川県立病院機構(以下病院機構とする)において再び医療事故が発生した。今度は、神奈川県立がんセンター(以下がんセンターとする)だ。

小川久仁子は、神奈川県立病院における医療事故調査制度の理解度について、令和7年9月19日に本会議質問を行った。医療事故調査制度への理解をより深め、県立病院における医療安全体制をしっかり確立してもらいたいという願いを込めた質問であった。

ところが、私が本議会質問を行った19日には、新しい医療事故が、がんセンターで発生していたのだった。これを私が知ったのは、10月1日であった。

県立こども医療センターで失われた尊い命にお報いするために(参照1) 私は医療安全体制の確立を強く求め続けている。その為に、この点について継続して議会質疑で取り上げてきた。私にとって12年ぶりの本会議質問で、医療安全体制の確立について正に質疑していた時には、再び医療事故が発生していたのだ。非常に残念なことだ。県立病院の医療安全体制は改善されていない、この一点につきるのではないか?と私には思える。

本題に戻る。私の今回の質疑は、以下である。(1)医療事故調査制度の運用や理念が現場に正しく浸透しているのか疑問を持っている。まず県立病院において医療事故調査制度の理念や意義についての再確認・再教育を行い、医療事故の再発防止に努めるべき、また、県内の医療機関全体にも周知し医療事故の再発防止に取り組むべきだが、どうか?(2)県立こども医療センターで発生した令和3年の医療事故についての医療事故調査センターによる調査結果報告書が公表されたが、これを踏まえて、さらに、どのように医療安全体制を強化していくのか?以上である。

こういう質問をしようと思い立ったきっかけは、日本医療法人協会理事である小田原良治先生の「医療現場における医療事故の意味の混乱を考える」というMRICへの投稿論文に接したことである。県立こども医療センターでの医療事故対応では、当時の院長からご遺族への医療事故調査センター調査についての説明が二転三転していた。調査開始時期についても、記者会見で、誤った認識をしめしていた。当時の院長を含めた病院幹部は医療事故調査をうけることは、医療過誤を認めることにつながるとの認識を強くもっていたに違いない。

だからこそ、院内調査結果報告書も時間をかけて、内容・表現を穏当に書き換え、公表も行わずに、賠償のみで事件を葬り去ろうとしていたのではないだろうか?これまでも、この幹部たちは、こういう手法で、何件も医療過誤を闇に葬り去ってきたのではないだろうか?と私は疑いを深めている。

現に、私への問1に対して首藤副知事からは、[「外部調査委員会」からは、5つの県立病院全体に対し、「医療事故と医療過誤の関係性を正しく認識できていない幹部が見受けられる」といった、厳しい指摘がありました]との答弁がありました。県立病院では、医療安全アクションプランの中に医療事故調査制度の考え方や仕組みを含む安全研修を位置付けたので、状況を確認し支援していくとも答弁している。

しかし、本年9月に新たに県立がんセンターで発生した医療事故は、食道ガン手術後の敗血性ショックと急性呼吸不全で死亡したという内容だ。体内に留置した腸ろうチューブが十二指腸を20センチ突き破った影響があると発表している。

この医療事故の経緯を以下に記す。令和7年9月4日、県立がんセンターで60歳代の男性に対して食道ガン手術を行なった。術後2日目の採決データーが悪かったためCT検査を行い、腸ろうチューブが十二指腸を穿孔していることが判明した。経腸栄養剤が腹腔内に漏出し腹膜炎を発症したため同日緊急手術を行ったが、状態が改善せず、術後4日目、9月8日に敗血症性ショックおよび急性呼吸不全で死亡した。

この事故が発生したことを、県医療局長が認識したのは9月11日だったそうだ。10月7日の厚生常任委員会で、健康医療局長が答弁している。9月6日の緊急手術の時点で県に報告してほしかった、とも局長は答弁している。

こども医療センターで発生した医療事故の隠蔽もしかりだが、こういう医療事故と疑われる死亡事故が発生した場合の、県立病院の対応マニュアルはどうなっているのだろうか?これに対しては、院内死亡事案発生時の基本フローチャートが令和7年5月14日に公表されている。このフローチャートによれば、院内死亡事案が発生し、ご家族に連絡し、医療事故の可能性があった場合は、フローが進む度に病院は県立病院機構に報告することになっているそうだ。とすると、本来、病院は県立病院機構に9月8日に報告するべきだったのだ。
病院機構は、9月11日にがんセンターからの報告を受け、県健康医療局に即共有したそうだ。まず、このがんセンターからの報告の遅滞に関して、なぜなのか?と県立病院機構と県健康医療局は課題をもっているそうだ。

しかし、健康医療局長は、9月6日での報告が必要だったと答弁している。腸から20センチもチューブが突き抜けていたなら、そして栄養剤が腹膜をおおい、腹膜炎を起こしていたならば、その時点で危険性を推測できそうなものだろう、という医療局長の思いだったのだ、と私は推測している。
今回のようなケースはもし医療事故とならなかったとしても、6日の緊急手術が行われた時点で、ヒヤリハットの重大なケースなのだから、緊急の第一報をガンセンターは病院機構に行う必要があろうと考える。が、そういう規則にはなっていない。こういう細かな規則を具体的に取り決めする必要があるだろう。積極的な情報公開と共有だ。しかし、がんセンターはそれを無視したのだ。そんな細かなことどうでもいいのではないか?と言わんばかりの反応だったようだ。
こういう反応は、県立病院の医療安全に関しての外部評価委員会の詳細な指摘を軽んじているといえる。これでは、医療安全体制は強化されない。より具体的で、詳細な規則を県当局は、県立病院機構と歩調を合わせて、策定していくべきである。特に医療事故制度に係る規則は、再度見直すべきである。
一方、記者発表では採血データーが悪かったためCT検査を行ったとなっているが、その他の症状も観察されたのではないだろうか?腹水、発熱、バイタルの異常など観察力が鋭ければ、正常ではない兆候というのがあったのではないか?推測の域にとどまらざるをえない議論だが、少なくとも、そのチューブを送管した担当者は明確なはずであるから、その担当者からはどのような説明を聞いているのかなど、委員会質疑では答弁していない細かな事実はあるはずだ。その結果、胃ガン、食道ガン手術は現在中止されていると聞くが、そう判断した詳細な理由を私は聞きたい。

この医療事故の院内調査結果が公表されるまでにも1年近くかかる。神奈川県立病院は、果たして、医療安全体制の確立、強化をどのように進めていくのだろうか?
重い疑問を私は再び持っている。
参照1 救える命を失って (MRIC投稿)

http://medg.jp/mt/?p=12452

http://medg.jp/mt/?p=12621

http://medg.jp/mt/?p=12623

 

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