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Vol.24197 医療ガバナンス研究所に息づく「日新公いろは歌」の精神

医療ガバナンス学会 (2024年10月17日 09:00)


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医療ガバナンス研究所
研究員 小坂真琴

2024年10月17日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

医療ガバナンス研究所では毎年3月に鹿児島での合宿を行っている。加治木島津家の当主である島津義秀さん(以下島津さん)から、野太刀自顕流と郷中教育、そして鹿児島の歴史を学ぶことを主旨とした合宿だ。

この合宿が契機となり、上先生の「異郷に飛び込め」という教えの下、滋賀県出身である私は、鹿児島市の公益財団法人慈愛会今村総合病院で初期臨床研修を行うこととなった。「ジェネラリストのための内科外来マニュアル」の執筆者の一人でもある西垂水和隆先生が研修委員長としてご指導くださる「錦江湾プログラム」だ。総合内科の教育体制の評判が高く、県外からも多くの医学生が見学に訪れる。

飯塚病院や聖マリア病院などの有名病院を含む連携施設が県内外に多くあり、私は研修2年間のうちで霧島市、北海道倶知安町、福岡県久留米市、福岡県飯塚市に1ヶ月ずつ研修で住む経験もできた。医学生の皆様にはぜひ見学をお勧めしたい。

初期研修を終えて半年が経った9月23日、島津さんのご縁で「薩摩から日本を変えよう」というシンポジウムにパネリストとして登壇する機会を頂いた。コーディネーターが島津さんで、パネリストは下豊留佳奈さん(オフィスいろは)、鯵坂圭司さん(日本テレビ、エール管弦楽団)、池水聖子さん(鹿児島県青年会館)という錚々たる皆様で、テーマが日新公いろは歌と郷中教育だった。

第一部の基調講演で、ANAホールディングスの芝田浩二社長は、江戸時代末期にイギリスに渡った薩摩若者たち「薩摩スチューデント」を引き合いに出しながら、「旅に出て未知なる世界に触れるのが大事だ」ということを若者へのメッセージとして特に強調して話されていた。

第二部のパネルディスカッションの前半は、鹿児島の魅力と課題がテーマだった。桜島という活火山がすぐ近くにあり、宇宙センターが2つある。さらに島津家から明治維新まで歴史も豊かであるという唯一無二の特徴がありながら、「鹿児島が大好きだというと、他の土地を知らないのになぜ、と否定的な言葉を返されることもあった」(下豊留さん)というほどに地元鹿児島の魅力に自覚的でない人が多いことが議論された。他に、踊りなどの民俗芸能が鹿児島市内だけで50以上あり、地域のコミュニティにおいて重要な役割を果たしているがその民俗芸能が急激に減少していることが池水さんから紹介された。

後半は、これからの鹿児島に期待することを中心に話が進んだ。鯵坂さんは、中高生を200人規模で巻き込んだオーケストラの企画を3か月の急ピッチで実現した経験を、「中高生を指導する立場にあったが、結局自分たちで取り組んでいく中高生の姿にこちらが感動した」と振り返った上で、「(立場が)上の者の仕事は、本人が自分で動き出すきっかけを作ること」と指摘されていた。

上記の話をパネリストとして登壇しながら聞く中で、医療ガバナンス研究所の指導方針はまさに薩摩的だなと感じ始めた。大学生時代から、「人を成長させるのは、読書・人との出会い・旅だ」(上先生)と繰り返し教えられ、鹿児島はもちろん、香川や福井、北海道でさまざまな方をご紹介いただき、観光だけでは分からない部分まで見て、人と出会うことができた。

今年度私は福井市のオレンジホームケアクリニックと福島県相馬市の相馬中央病院を往復して勤務を行っているが、いずれも独自の取り組みをする現場とそれを動かす一流の人物に接して、学ぶことを旨として決まった。通常の勤務に加えて定期的な輪島への訪問などを通じ、少しずつ異郷である各地域に「棲み込め」るようになってきたと感じる。また、オレンジの様々な取り組みを少しずつ発信してきた。(1-4)

現場に行って体感したことを、自分の言葉で発信する訓練は、まさに日新公いろは歌の最初である「いにしへの道を聞きても唱へてもわが行にせずばかひなし」の体現だと思う。

私は、パネルディスカッションの最後に高校生に向けてこの話をした上で、興味があれば医療ガバナンス研究所にも見学をと紹介をした。私は高校1年生の夏休みに医療ガバナンス研究所の前身である東大医科研の研究室にお邪魔したのが現在のご縁の始まりだった。ぜひ同じような経験をしてもらえればと思ったからだ。

すると、パネルディスカッションの終了後、二人の男子高校生が声をかけてくれた。うち一人は芝田社長の基調講演でも、大人数の前で挙手をして質問していたが、「今日の講演会で何かしら必ず掴もうと思っていたんです」と熱く話してくれた。こうした気概が人生を少しずつ動かしていく。数年ながら人生の先輩として、次の機会を作るのが自分のミッションだと感じた。

(1) Vol.24139 ポジティヴヘルス学校検診のすすめ   http://medg.jp/mt/?p=12497
(2) Vol.24154 生活に密着して「座る」を支えるチェアラボ   http://medg.jp/mt/?p=12535
(3) Vol.24167 オレンジキッズケアラボのコミュニティと専門性が作るゼロイチ体験   http://medg.jp/mt/?p=12589
(4) Vol.24182 日本の高齢者施設に新たな風を吹き込むインド人スタッフ   http://medg.jp/mt/?p=12639

 

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